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278 有料映画館の人々 「スタートラインという映画を観て」


私(U-RYOシネマの発起人)の古くからの友人ISさんは、小学校教諭の現役時代から10回以上、川崎から京都まで500キロ弱を、毎年夏休みを利用して踏破してこられましたが(私も第2回以降に数日間同行)、さまざまな人との出会いも含めて、人生の研修をしているような感じだったと言われます。そんなISさんに「スタートライン」をご覧いただき、感想も送っていただきました。

 

●「スタートラインという映画を観て」

冒頭に映った今村さんの机の横に貼ってあった「一点素心」の習字で書いた紙が気になった。見終わった後にいろいろ調べてみたら、中国の故事にあるらしい。一番しっくりいった解釈は、「人間らしく生きるためには、ほんのわずかでも純真な心を持つ必要がある」ということかな。今村さんは、この自分の中にほんの僅かある「純真な心」に拘って映画を撮っているのかもしれないなんて思った。この映画は、「自転車で日本縦断したい」という純な気持ちに突き動かされてできたものなんだろう。私は、20年前に東海道の歩き旅を計画して実行したことがある。私が関わっている色覚差別撤廃の運動に関わる行動のような感じでいたけど、何度か繰り返すうち自分を突き動かしているのは違うんじゃないかとおもうようになったもんだ。ほんと単純に「京都まで歩いて行ってみたい」というもの。なんか今思えば、これが一番自分の純真な心から出ている言葉だと思う。今村さんは「自分を変えたい」「コミュニケーションができるように」「ろう者でもできること」という言葉を発しているけど、やっぱり一番私に届く言葉は「自転車で日本縦断」。この一点素心があったからこそ、いろんな体験ができたんだろう。「自分を変える」・・・無理無理。コミュニケーションができるように」・・・無理無理。「ろう者でも・・・」・・・今村さんの個人的なこと。最後の方で、「まだ何もできていない・・・」なんて言っていたけど、自分の中にあるほんのわずかな「純真な心」の存在を感じているのが伝わってきて、今村さんが羨ましい。

 もう一つこの映画で気になったのは、伴走車のてつおさん。自転車屋の店員で空手の師範代という紹介だった。旅のルールの決め方、事故を起こさないための指示等、実に厳しく、北海道の稚内まで行けたのはてつおさんのおかげと言ってもいいだろう。でも、気になったのはてつおさんの気持ち。映画の主人公ではないからしょうがないのかもしれないけど、この旅を通しててつおさんがどう変わったのかが特に気になった。端から見れば無謀と言えるこの旅で、普通の人間なら変わらないはずがない。きっと膨大なフィルムを撮ったと思うので、てつおさんを主人公にした映画もできるんじゃないだろうか。もしかしたら、てつおさんの「一点素心」が見られるかも。なんたって、映画の最後に言っていたけど、てつおさんはこの旅で12㎏も痩せたそう。私も東海道歩き旅の最初で、同じく12㎏痩せたもんだ。いろんな無理を重ねると、身体は正直でどんどん痩せさせるみたい。てつおさんの「無理」を見てみたい。

 私の東海道の旅は、二回目から身体の痩せはなくなった。今村さんは体重がほとんど変わらなかったらしい。それだけ、自分に無理なく、身体に正直に行動したんだろう。

 今村さんの次の「一点素心」を表した映画を観てみたい。